仕事で使える画像生成AI入門 – 「クオリティ」と「安全性」を両立する、現場目線のはじめの一歩 –

この記事は KINTOテクノロジーズ Advent Calendar 2025 の23日目の記事です
はじめに:「AIなら一瞬でした!」…で、そのまま提出していませんか?
※本記事の内容は 2025年12月時点 の情報に基づいています。各サービスの仕様・規約は変更される可能性があるため、最新情報は公式サイトをご確認ください。
「企画書のイメージ画像、AIで作ってみました」「ブログのアイキャッチ、AIなら一瞬でした」
こんなフレーズを、最近あちこちで見かけるようになりました。実際、画像生成AIはビジネスパーソンにとってかなり強力な味方です。
ただ、正直に言うと、「なんとなく便利だから使っているだけ」で終わってしまっているケースも多いのではないでしょうか。
- とりあえずAIにお願いして出てきたものを、そのまま資料に貼る
- なんとなく不安はあるけれど、深く考える時間もない
- 「みんな使ってるし…まあ大丈夫でしょ」と自分を納得させる
私自身も、最初は完全にこのモードでした。
ですが、仕事で使う以上、「どこにリスクがありそうか」だけでもざっくり知っておくと、仕事の質が一段上がる感覚があります。
本記事では、「なんとなく使っている」状態から、「企業で働く一人として、責任を持って使いこなす」状態へアップデートしていくための実務的なポイントを、できるだけ現場目線で共有していけたらと思っています。
本記事の流れ
- 「便利さ」の裏にある、3つのモヤモヤを整理する
- ビジネスパーソンにおすすめの「3つのAIツール」との付き合い方
- 「組織のルール」より前にできる、個人としての3つの工夫
「便利さ」の裏にある、3つのモヤモヤを整理する
まずは、「画像生成AIを使うときに、なんとなくモヤッとしているけど言語化できていない不安」を整理してみます。
画像生成AIのリスクは、大きく分けると次の 3つのカテゴリー に置き換えられます。
- 法的リスク:この画像って「誰のもの」なんだっけ?
- ブランドリスク:「AIだから安全」ではない
- オペレーションリスク:「なんか不安だけど、聞ける人がいない」
順番に見ていきます。
1. 法的リスク:この画像って「誰のもの」なんだっけ?
AIで画像を作ったとき、ふと頭をよぎる疑問があります。「この画像の著作権って、誰にあるんだろう?」「自分の作品として発表していいのか?」「クライアント案件で使っても大丈夫なのか?」——そんなことを考えたことはないでしょうか。
実際のところ、使用しているツール、どの国・地域の法律が適用されるか、そしてそのツールの利用規約や自社の契約の内容、これらの組み合わせによって解釈はかなり変わってきます。
なので法律の専門家でなくても、少なくとも
- 「ツールごとに権利の扱いが違うらしい」
- 「商用利用OKかどうかは、利用規約を一度は見ておいた方がいい」
くらいの感覚を持っておくだけでも、「ちょっと立ち止まるためのブレーキ」がちゃんとかかるようになるかと思います。
そして利用規約を読むのが難しい場合や判断に迷う場合は、独断で使わずに上長、情シス部門、法務担当などに「このツール、業務で使っても大丈夫ですか?」と一度聞いてみるのも一つの手です。
それだけでも、多くのトラブルを防ぎやすくなります。
「無自覚に似てしまう」リスク
さらに怖いのが、「無自覚に既存作品に似たものを作ってしまう」リスクです。
画像生成AIは膨大な画像データを学習して動いているので、こちらの意図とは関係なく、
- どこかで見たことがある構図
- 有名キャラクターにちょっと似たもの
- 某ブランドっぽいロゴ
といったものが、それっぽく出てきてしまうことがあります。
そのときに、「AIが勝手に作ったんで…」という言い訳は、残念ながら通用しません。
外に出すのはあくまで「自分(自社)」だからです。
「この画像、本当に大丈夫かな?」と少しでも感じたら、一度立ち止まって、権利面を確認するという習慣をつけておくと安心です。
2. ブランドリスク:「AIだから安全」ではない
たとえ法的にはセーフでも、こんなケースはどうでしょうか。社内のトーン&マナーとまったく合わないビジュアルを使ってしまったり、意図せずステレオタイプな表現が混じっていたり、社会的な配慮を欠く表現になってしまっていたり——。こうしたケースは、法的には問題なくても、ブランド毀損につながりかねません。
生成AIは、学習データの傾向を反映して、思わぬ偏見を含んだ画像を出力してしまうというケースも珍しくありません。
研究レベルでも、職業・性別・人種などに関するステレオタイプを強く反映してしまうことが指摘されています。
「AIで作ったからこそ、人間がチェックする」 という意識がとても大切で、最後は人間が「目を通す」「悩んだら誰かに見せる」ことを前提にした運用にしておくと安全度が大きく変わります。
3. オペレーションリスク:「なんか不安だけど、聞ける人がいない」
そして地味に効いてくるのが、この「運用まわり」のリスクです。
- 社内でAIをちゃんと使いこなしている人がまだ少ない
- どのツールを使っていいか、会社として決まっていない
- 生成した画像の保管場所がバラバラ
- 結局、「まあいいか」で自己判断になりがち
例えば、個人の Google アカウントや OpenAI アカウントで業務用の画像を生成していると、退職時にデータが個人側に残ってしまったり、会社側が、どのアカウントで何が作られたか把握できない、といった問題が生じる可能性があります。 可能であれば、法人プランの利用を情シスや上長に相談することをおすすめします。
プロンプトに機密情報を書き込んでしまうリスク
もう一つ気にしておきたいのが、プロンプトに機密情報を書き込んでしまうかもしれないという点です。
たとえ「入力データを学習に利用しない」ことが明示されている法人向けプランを使っていたとしても、入力した情報は一度サービス提供者のサーバーを経由します。
OpenAI や Google、Adobe なども、ヘルプやポリシーで「機密情報は入力しないでください」と明記しています。
例を挙げると、次のような情報は入力を避けるべきです。
| 例 | 入力を避けるべき内容 |
|---|---|
| 〇〇社向けの提案資料を作る | 取引先の企業名・個人名 |
| 新製品『△△』のロゴ案を5パターン考える | 未発表のプロジェクト名・製品名 |
| 売り上げの数値まとめる | 社外秘の固有名詞・数値など |
こうした場面では、固有名詞を伏せて「大手自動車メーカーA社」「金融機関B社」、「来年発売予定の新商品」のように、抽象化して入力することを心がけるとリスクを下げられます。
それでも、AIはちゃんと使えば最強の「相棒」になる
ここまでリスク寄りの話が続きましたが、「じゃあ使わない方がいいのか?」というと、そうではありません。
「正しく怖がる」 ことができれば、画像生成AIは本当に頼れる相棒になると感じています。
現場目線でいうと、特にこんなメリットがあります。
イメージの共有が圧倒的に早くなる
「こんな感じの世界観で」と口頭やテキストで説明するより、AIでざっくりイメージを出してしまった方が早い場面はたくさんあります。
「素材探し」からある程度解放される
ストックフォトサービスで延々とスクロールする代わりに、「夕暮れの高速道路を走る青いコンパクトカー」など、欲しいシチュエーションを直接プロンプトで指定できるのはメリットが大きいです。
アイデア出しの壁打ち相手になってくれる
「ちょっとやりすぎかも?」くらいの案を遠慮なく試せるので、思わぬ表現に出会えることもあります。
大事なのは、「魔法の箱」として丸投げするのではなく、自分の意図を持って使うという感覚です。
AIはあくまで「相棒」であって、最終判断は自分がする。その意識があるだけで、活用の質がぐっと変わります。
ビジネスパーソンにおすすめの「3つのAIツール」との付き合い方
ここからは、現場の目線で使いやすい 3 つのツールを、「どういうときに相性がいいか」という観点で整理してみます。
| # | ツール | 特徴 |
|---|---|---|
| ① | ChatGPT | 会話ベースでイメージを固める |
| ② | Google Gemini | Google Workspace連携 |
| ③ | Adobe Firefly | 権利面の安心感 |
① ChatGPT
→ 「言葉にしながらイメージを固めたい」ときに
会話ベースで「もう少し柔らかい雰囲気に」「右の人物を消して」といった修正ができるのが強みです。
企業での利用について
企業で利用する場合、個人アカウント(Free / Plus / Pro)ではなく、以下の組織向けプランが推奨されます。
- ChatGPT Business(※2025年8月に「Team」から名称変更されました)
- ChatGPT Enterprise
これらのプランでは、デフォルトで入力データが学習に使われない設定になっていると説明されています。
一方で、Free / Plus / Pro といった個人向けプランでは、デフォルトで会話内容がモデル改善に利用される設定だと説明されています。
設定画面でオプトアウトしない限り学習に利用される可能性があるため、業務利用時は特に注意が必要です。
相性が良いシーンの例
- 企画の初期段階で、コンセプトの方向性を探りたいとき
- 「こんな感じ?」と壁打ちしながら、画像のバリエーションを試したいとき
- テキストと画像をセットで考えたい(タイトル案+キービジュアル案 など)とき
公式サイト(ビジネスデータのプライバシー、セキュリティ、コンプライアンス)
② Google Gemini
→ 「Google Workspace との連携」を重視したいときに
「スライド用の背景画像をサッと欲しい」「提案資料の中に入れるイメージをその場で作りたい」といったニーズにフィットします。
企業での利用について
Google Workspace の商用プランでは、入力データや生成物はAIの学習に利用されません(商用データ保護が適用されます)。
一方で、個人アカウント から Gemini アプリを使う場合は、会話内容が製品改善やモデル改善に利用されることがあります。
業務で使うなら、自分がどの契約・どのアカウントで Gemini を使っているかを必ず確認しておきたいところです。
相性が良いシーンの例
- 提案資料に差し込む、リアル寄りのイメージ画像が欲しいとき
- すでに Google Workspace を業務で使っているチーム
- ドキュメントやスライドの中で、そのままプロンプトを書いて画像を生成したいとき
公式サイト(Google Workspace の生成 AI に関するプライバシー ハブ)
③ Adobe Firefly(アドビ ファイアフライ)
→「権利関係のクリーンさ」を最優先したいときに
Photoshop や Illustrator でおなじみの Adobe が提供する画像生成AIです。
最大の特徴 は、Adobe が Firefly について、Adobe Stock などのライセンス済みコンテンツや著作権が消滅したパブリックドメイン画像など、権利的にコントロールされた素材を中心に学習している と公式に明示している点です。
もちろん、これだけで「何があっても絶対安心」とは言えませんが、コンプライアンスを重視する企業のWebサイト、広告クリエイティブ、大規模なキャンペーンビジュアルなどを作るときに、ひとつの"安心材料"として選びやすいツールです。
IP補償について
また、エンタープライズ向けの Firefly ソリューションやAdobe Stock の一部の生成機能では、一定の条件を満たした場合に、生成物に対するIP補償 が提供される仕組みがあります(対象となるプランや条件は契約形態によって異なります)。
「会社でAdobeに入っているから大丈夫」と思い込まず、「自社の契約はIP補償の対象プランか?」を一度確認することをおすすめします。
相性が良いシーンの例
- 既に Photoshop / Illustrator を使っていて、その延長で生成AIを使いたいとき
- 権利面・ブランド面への配慮が特に重要なプロジェクト
- 生成画像に Content Credentials(生成経路の情報)を付けて管理したいとき
公式サイト(包括的で安全に商用利用できるAIを活用したビジネス用コンテンツ制作)
公式サイト(Adobe Fireflyによる生成AIへのアプローチ)
「組織のルール」より前にできる、個人としての3つの工夫
「うちの会社、まだAIのルールとか全然決まってないんだよね…」という方も多いと思います。
まずは、社内にすでにルールやガイドラインがないかを確認してみてください。
すでにある場合は、当然そちらが最優先です。
「確認したけど特にない」「これから整備される予定」という状況であれば、今日からできる小さな工夫を3つだけ挙げておきます。
工夫1:使うツールの「利用規約をまず確認してみる」
細かいところまで読み込めなくても、少なくとも、次のようなポイントは一度チェックしておくと、いざという時に助かります。[1]
確認すべきポイント
- 商用利用はOKか
- 再配布・譲渡はどこまで許されているか
- クレジット表記が必要かどうか
- 「AI生成です」と書く必要があるのか
- この画像は「自分のもの」として扱っていいか[2]
- 権利がユーザーに帰属するのか
- それとも、サービス側からライセンスを付与される形なのか
ツールによって、
- 「入力と出力はユーザーに帰属します」
- 「ユーザーに一定のライセンスを付与します」
といった表現が分かれますし、OpenAI や Adobe のように、ビジネス向けサービスでIP補償を用意しているケースもあります。
ポイント
「なんとなく大丈夫そう」ではなく、最低限、上の項目について 「どこに何が書いてあるか」だけでも見つけておく と、自分では気づかないリスクがグッと減ります。
工夫2:「これはアウトかも?」と思ったら、一度人に見せる
- 有名キャラに似ていないか
- ブランドロゴっぽい要素が入っていないか
- 社会的な配慮を欠く表現になっていないか
など、自分だけの判断では不安なときは、チームメンバー、デザイナー、上長などに「どう思う?」と一度聞いてみることが必要だと思います。自分では気づきにくいグレーゾーンを別の人があっさり見抜いてくれる、ということもよくあります。
工夫3:プロンプトと生成物を「メモしておく」
「この画像どうやって作ったんだっけ?」という振り返りのためだけでなく、万が一、第三者から「この画像、似ていませんか?」と問い合わせが来たときに、「このツールで、このプロンプトで生成しました」と説明できる状態にしておくことが、自分や会社を守ることにつながります。
完璧な管理まではしなくても、以下の内容を記録しておくと説明しやすくなります。
| 記録レベル | 内容 |
|---|---|
| 最低限 | どのツールを使ったか(ChatGPT、Gemini、Firefly など)、いつ生成したか(日付) |
| 推奨 | プロンプトの全文、生成した画像のファイル名と保存場所、使用目的(社内資料 / クライアント提案 / Webサイト など) |
スマホのメモアプリや、生成した画像と同じフォルダにテキストファイルを置いておくだけでも、何もしないよりはるかに役立ちます。
EU AI Act や G7広島プロセス など、生成AIの透明性や説明責任が重視されつつあります。
「どのツールで、どんな指示を出して、どの画像を使ったか」をざっくりでも追えるようにしておくことは、こうした流れに備える意味でも有効です。
おわりに:「なんとなく」から「意識して使う」へ
画像生成AIは、使いこなせば本当に頼れる相棒になります。
でも、「便利だから」とただ流されるのではなく、リスクを意識しながら使うことで、仕事の質も、周囲からの信頼も、一段上がるはずです。
完璧なルールが整うのを待つ必要はありません。
- 利用規約を見る
- 迷ったら誰かに聞く
- 使ったツールやプロンプトを軽く記録しておく
こうした小さな実践の積み重ねが、
「なんとなく使っている人」と「責任を持って使いこなしている人」の差になっていくのだと思います。
免責事項
本記事は、画像生成AIに関する一般的な情報の共有を目的としたものであり、
法律的な助言を行うものではありません。
具体的な判断が必要なケースでは、
- 各サービスの最新の利用規約や FAQ
- 所属組織のルール・ガイドライン
- 必要に応じて専門家(法務・弁護士等)
に相談することをおすすめします。
業務上の最終判断にあたっては、利用規約の該当箇所を詳細に確認するか、法務担当への相談をお勧めします。本記事で紹介しているのは「最初の一歩」としてのチェックポイントであり、これだけで十分という意味ではありません。 ↩︎
各サービスの利用規約には、生成した画像の扱いについて記載があります。
ただし、ここが少しややこしいところです。
「権利はユーザーに帰属」と書かれているサービスもあれば、「ユーザーにライセンスを付与」といった書き方のサービスもあります。
特にクライアントとの契約で「著作権の譲渡」が条件になっている場合は、自己判断せず、利用規約の該当部分を法務や上長に見せて「この条件で問題ないか」を確認することをおすすめします。 ↩︎
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