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KPTだけじゃない!その場にあったレトロスペクティブを開催するために

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自己紹介

こんにちは。KINTOテクノロジーズの小山(@_koyasoo)です。今年からアジャイル推進に注力し始め、普段はスクラムマスター専任でチーム作りに励む毎日を送っています。今回はその中の活動を紹介したいと思います。

レトロスペクティブといえば・・?

みなさん、ふりかえり(レトロスペクティブ)していますか?

レトロスペクティブといえばKPT。ふりかえり手法のもはや代名詞と言われるようになってきましたね。KPTを使っている現場はものすごく多いと思いますが、果たしてそれは機能しているでしょうか?

私は今年の6月にスクラムフェス大阪に参加し、色々なセッションを受ける中で1つ強烈に印象に残ったセッションがありました。

OODA!!!!!(わかる人にはわかる)

はい、いくおさん(@dora_e_m)ですね。いくおさんのふりかえりに関するセッションがとても印象に残りました。それまでふりかえりにはKPTしか使っていなかった私に 「ふりかえりが実りある場であり続けるために マンネリ化を避けたい」 という言葉がとても刺さりました。そこで「ふりかえりならいつもやっているし、すぐに行動に移せるのでは?」と思いました。

特にセッションの22ページ目に書いてあるように、KPTをYWT(KPTと似ている)に変更しただけで、めちゃくちゃ意見が出たというところが目から鱗でした。発想を変えるだけで意見って出るのか・・。

いくおさん資料22ページより引用いくおさん資料22ページより引用

そこで、本記事では私が実際に実践した5つのふりかえり手法をご紹介します。

ふりかえり手法の使い分け方まとめ

いくおさんのセッションにもあるように、状況にあったふりかえり手法を切り替えることができると、より良いチームの成長につながると考えています。以下に各手法の特徴をまとめてみたのでぜひ参考にしてください。

こんな時に使える! 気をつけること
KPT いつでも使えるオールマイティ こればっかりにならないこと
熱気球 チームの未来を考えたいとき 現状ある課題より過去のふりかえり要素が小さくなる
LeanCoffee いろんな話題をしたいとき, ふりかえりじゃなくても使える 時間に追われてディスカッションするので少々疲れる
Celebration Grid 事実に基づいてディスカッションしたいとき 実施したことが少なく、感じたことが多いタイミングだと意見が出ずらい
FunDoneLearn ポジティブにふりかえりたいとき ネガティブが無視されがち
象、死んだ魚、嘔吐 チームに不満が溜まっていそうなとき チームが崩壊しないようにファシリテーションする

以降では、それぞれの振り返り手法について具体的にご紹介します。

ふりかえり紹介!

この記事を読んでくれた方(特に今までKPTしかやっていない方)にぜひ、 別手法を試す第一歩を踏んでほしい! と考え、実施の仕方をできるだけ具体的に紹介したいと思います。やりやすいもので構わないので、ぜひやってみてください。意外とやってみたらKPTとそんなに変わらないです!

なお、紹介する例では基本的にオンラインホワイトボードツールのMiroを使用しています。

1. 熱気球

中央に描かれる「熱気球」を自身のプロダクトと置き換え、それに対しどんな「荷物」があったか、「上昇気流」は何か、今後妨げとなりうる「雲」は何だろうか、という考え方でふりかえりを進める手法となります。

熱気球のイメージ画像と、3種類の見分けられる付箋を準備しておけば実施可能です。我々のチームではこのような熱気球が作成できました。

熱気球の図熱気球の図

実施方法は以下のとおりです。

  1. まず「上昇気流」について書き(5分)、ディスカッションを実施(8分)。
  2. 次に「荷物」について書き(5分)、ディスカッションを実施(8分)。
  3. 同様に「雲」について書き(5分)、ディスカッションを実施(8分)。
  4. 最後に「より熱気球を高く飛ばすために重要なことは?」という観点で議論(10分)。

この手法では現在を見つめ直し、未来を想像することにフォーカスが当たる議論が生まれやすいです。KPTと比べるとProblemがProblem(現在)、Problem(予想)に分解されるため、より課題点をディスカッションしやすい手法とも言えます。

2. LeanCoffee

話題の洗い出しから始まり、さらにそれらに対して短いタイムボックスに区切って様々な会話を実施する手法です。

話題洗い出し用の付箋を編集できるエリア、ディスカッションに選出された付箋を順番に処理するエリアを準備しておけば実施可能です。こちらはMiroにテンプレートがありましたのでそちらを使ってみました。

LeanCoffeeの図LeanCoffeeの図

実施方法です。

  1. はじめに参加者にお題を挙げてもらいます(8分)。このときテーマを指定してあげると参加者が意見を出しやすいです。
  2. 投票機能などを使い参加者の興味のあるお題を特定します。
  3. 票数の多いものから順番に以下のサイクルでディスカッションします。
    1. 最初は5分間、お題の説明するところを含めてディスカッションを開始します。
    2. 5分経った時点で一旦議論を止めます。そしてこのお題でまだ続けるかを参加者に問います。投票機能を使っても良いです。
    3. 続ける場合は追加で3分、終わる場合は次のお題に移ります。
    4. 3分経った時点でも同様に議論を止め、再度続けるか問います。
    5. 続ける場合は追加で1分、終わる場合は次のお題に移ります。
    6. 最後の1分が終わったらそのお題は終了です。追加で話したい場合は別途時間を設けるようにして、その時間でのディスカッションは終了させましょう。

この手法はとにかく色々な話題が次々に移り変わりますので、たくさんのことについてディスカッションができます。また、チームメンバーのその時興味のある方向性が傾向としてみれます。さらに、メンバーのタイムボックスへの意識付けにも使えるかもしれません。

ファシリテーション時には特に議論を止めるのが難しいですが、タイマーで音を鳴らしたり、会話の切れ目などで何とか止めるようにしましょう。この手法はタイムボックスが守れないと崩壊してしまいますので注意です。

3. Celebration Grid

実施した事柄に対して「成功」「失敗」の軸と「間違ったやり方」「実験的なやり方」「既に知っているやり方」の軸で、六象限に分けてディスカッションを進める手法です。名前の通り、成功・失敗に関わらず起きたことをお祝いするポジティブなマインドで進めます。

こちらのサイトの図を使用して進めることが多いみたいです。

CelebrationGridのテンプレートCelebrationGridのテンプレート

図の通り、それぞれのエリアは事象が発生する確率に合わせて大小サイズが異なっており、以下のような意味合いがあります。これらに沿ってディスカッションを進めました。

間違ったやり方 実験的なやり方 既に知っているやり方
成功 ラッキーだったね! いい体験をしたね! 正しいことをしたね!
失敗 なるべくしてなった 大丈夫、学びはあったさ 運がなかった

Celebration Gridをやってみた図Celebration Gridをやってみた図

実施方法です。

  1. 期間を指定して「やったこと」を挙げてもらいます(5分)。それぞれどこに属すかを考えながら挙げてもらうように誘導します。
  2. それぞれについて深掘ります。
  3. 最後に多くの気づきがあったことを全員で祝って終了します。

ぱっと見、難しそうな手法かと思いきや結構シンプルです。「発生した事象・事実」に基づいて会話が進むので、思想に捉われず事実と分離しながらディスカッションできます。逆に「事実」をまず挙げなければいけないので、参加者によっては意見が出ずらい場合があります。メンバーを集める際にできるだけ実働している人を選定するとうまくいきそうです。

4. FunDoneLearn

文字通り、Fun(楽しかったこと)、Done(やったこと)、Learn(学んだこと)を挙げていく手法になります。それぞれを包含する要素は円が重なるところに書いてもらいます。

それぞれの円を重ねたベン図のようなテンプレートを用意しておけば実施可能です。重なるエリアを大きくしておくと付箋が貼りやすいです。

FunDoneLearnの図FunDoneLearnの図

記載するほどではないですが、実施方法です。

  1. 期間を指定して、付箋を貼ってもらう(5分)。
  2. それぞれに対してディスカッションする

Funの要素があるように、ポジティブにフォーカスする手法です。全体的にハッピーな気持ちで振り返りが実施できると思います。逆にProblemのようなネガティブ要素が少ないので、それらが多そうな場合はあまり向かないかもしれないです。

5. 象、死んだ魚、嘔吐

3つの角度から課題を洗い出す手法です。象(みんな知っている課題)、死んだ魚(放置するとまずい課題)、嘔吐(心の中にある課題)といった具合で、メンバーから普段言いづらいことをぶっちゃけてもらいます。

象と魚と嘔吐の図があれば実施可能ですが、メンバーの個人間の対立を防ぐために大きめにルールを書いておくことを推奨します。

象、死んだ魚、嘔吐の図象、死んだ魚、嘔吐の図

実施方法です。

  1. まずルールの説明をします。この手法でチーム内を対立させたいわけではなく、今ある課題に対して打ち手を考えたいだけであることを説明します。この手法では大事なポイントだと思っています。
  2. それぞれに沿って付箋を挙げてもらいます(8分)。私のチームではネガティブに寄りすぎないように、反転してポジティブな意見になればピンクの付箋で追記してもらうよう案内しました。
  3. 特にこの手法では意見出しの最中に他のメンバーの内容が見えてしまうと、場合によってはモヤモヤしてしまうかもしれないため、編集中の付箋は公開しないようにします。MiroであればPrivate Modeを使うと良いです。
  4. Private Modeを解除し、それぞれに対してディスカッションします。

ネガティブに向き合う手法のため、他の手法に比べると少々気を遣うことが多いです。ですが、そこまでネガティブな雰囲気にはならず、「そんなこと気にしてたのか〜」「同じこと思っていた!」などの意見が出ると予想されます。チームでの課題解決の方向性を合わせるのに非常に有効だと思います。

どのふりかえりにも言えること

KPTを含め6つのふりかえりを実施した私の所感ですが、共通項は意外と多いです。

  • 最終的なゴールはいつも「ネクストアクションをチームで合意する」
  • 大きめにルールを書いておくと参加者が迷わない
  • 意見は会の中で挙げてもらえばOK!ベースは5分、考えさせる内容なら8〜10分
  • ディスカッションではまず付箋を説明してもらい、次に「自分で感想を言うか」「感想ありそうな人に雑に振る」!(雑な方がフラットに意見が出やすいと思ってます笑)
  • 自分も意見を出す場合は、事前に付箋を用意しておいた方がファシリテーションに集中できる

特に1番目の「ネクストアクションを合意」が意識できていれば、どの手法も回すことができます。それさえ決まればふりかえりを実施した価値になります。他のことは全て忘れても良いくらいです。

参加者からの感想

新しい手法を新しいメンバーで実施した後はいつも不安になります。ぶっちゃけKPTで良かったんじゃないか・・、色々指示しすぎて果たして振り返れていたか・・。

もしこんな思いをしていたら(自分のように)、恐れずにメンバーに感想を聞いてみましょう!きっとポジティブな意見しか返ってこないですよ。

  • いつもと違うふりかえりで新鮮だった。楽しかった。(熱気球)
  • タイムボックスを意識して話ができたので、いつもは同じ話題で終わってしまうが色々な話ができて良かった。課題点が明確になった。(LeanCoffee)
  • 失敗が多くなってしまったが、それがいい失敗なのか悪い失敗なのか分けて考えることができた。(Celebration Grid)
  • チームメンバーが何に楽しさを感じて仕事をしているのかわかって良かった。シンプルに楽しかったことをシェアできたのも良かった。(FunDoneLearn)
  • 思っていた課題がチームの共通認識にできて良かった。ぶっ込んでくれて助かった。(象、死んだ魚、嘔吐)

まとめ

どれかの手法に固定するのではなく、シーンに合ったふりかえり手法を選んで実施できるようになると、より良いチームになっていくと考えます。私もまだ6手法しか試せていないので、これからどんどん増やしていきたいと思います!

冒頭でも記載した通り、まだKPTしかやっていない方がいればぜひどれかの手法を試してみてください!まずは本記事記載の流れで。慣れてきたらアレンジしてチームに合わせてみるなんてどうでしょうか。

この記事がレトロスペクティブで悩めるスクラムマスターの後押しになったら嬉しいです。

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