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技術者と障害当事者がチームで実現するアクセシビリティの「当たり前品質」:デブサミ2026参加レポート

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こんにちは。Engineering OfficeのAccessibility Advocate、辻勝利です。
少し前になりますが、2月19日にDevelopers Summit 2026(デブサミ2026)に参加し、一般財団法人GovTech東京によるセッション「アクセシビリティを“あたりまえ品質”に!!」を傍聴してきました。

登壇者の一人である松村道生さんは私の知人であり、同時期に新たな環境へ身を投じた仲間でもあります。彼がGovTech東京という組織において、どのようにアクセシビリティ推進を開発プロセスに組み込んでいるのか、その実践を参考にしたいと考えたのが参加の動機でした。

30分という限られた時間でしたが、アクセシビリティを「付加価値」ではなく「当然備わっているべき品質」と定義し、組織的に取り組む姿勢が非常に明確なセッションでしたので、今回はその内容を簡単にお伝えします。

1. 効率化の裏側にある「課題」の実態

セッションの前半では、視覚障害当事者でもある松村さんより、現在のデジタル化・効率化がもたらした課題が共有されました。

近年、サービスの効率化や自動化が「良いこと」として捉えられる傾向があり、様々なところで実際にいろいろなサービスの効率化が図られています。
もちろん、人材不足などの様々な要因により致し方ないと考えられる側面もありますが、下記の事例は私たち視覚障害者の「それでは済まされない現実」をあらわにする内容で、私も一つ一つうなずきながら聞きました。

  • マイナンバー設定の課題: 役所にスクリーンリーダー環境が整備されていなかったため、秘匿すべきパスワードを職員に口頭で伝えて代筆・設定してもらうしかなかった経験。
  • 対面サービスの減少: 駅の「みどりの窓口」削減により自動券売機が主流となったことで、独力での切符購入が困難になった現状。
  • 行政申請の壁: コロナ禍のワクチン接種予約など、視覚障害者が独力で完結できない設計のままリリースされたサービスの実態。

これらの事例を通じて、「世の中を便利にするための自動化が、結果として一部の都民を排除してしまっている」という切実な現状が示されました。

2. 行政サービスにおける「唯一性」と責任

特に印象に残ったのが、行政サービス特有の責任に関するお話でした。

民間サービスであれば、もし「サービスA」がアクセシビリティの問題で使えなくても、ユーザーは代替手段として「サービスB」を選択できる可能性があります。しかし、行政サービスである「東京アプリ」は唯一無二の存在であり、他に選択肢がありません。

「使えないから他を使う」という逃げ道がない以上、最初から全都民が等しく使える状態でリリースしなければならない。この「代替不可能な公共インフラとしての責任感」が、GovTech東京がアクセシビリティを最優先事項に据える最大の根拠であることを再認識しました。

3. シフトレフト:開発工程へのアクセシビリティの組み込み

山内晨吾さんが担当されたパートでは、これらの課題を「後付け」ではなく、開発の最上流から解決する「シフトレフト」の実践手法が紹介されました。

  • デザイン段階からの設計(Figma): コンポーネント単位で要件を定義し、UI設計時に品質を確保。
  • テストコードによる自動検証: 機械的にチェック可能な項目を自動化し、デグレード(品質低下)を防止。
  • AIレビューの活用: LLM(大規模言語モデル)等を活用し、コードレビュー段階でアクセシビリティの不備を検知。

GovTech東京では、山内さん(エンジニア)と松村さん(当事者視点)が密に連携し、技術的な仕組みと実際の課題の体験が双方向でフィードバックされる体制が確立されています。チームとして高度に機能していることが、発表の端々から伝わってきました。

4. 「なくては困る」を基準にする開発文化

セッションの核となっていた、アクセシビリティを「あったらいいね(魅力品質)」から「なくては困る(当たり前品質)」へ変えていくという視点は、私が取り組んでいる「アクセシビリティを社内文化にする」という活動とも強く共鳴するものです。

この業界で20年以上アクセシビリティの啓発に従事していますが、当事者意識(オーナーシップ)と技術的な合理性がこれほど高いレベルで融合した発表には、なかなか出会えるものではありません。

おわりに

イベント終了後の「Ask the Speaker」では、お二人に直接ご挨拶する機会を得ました。現場で格闘している方々と対話し、今後の連携の可能性についても言葉を交わせたことは大きな収穫でした。

今回のセッションで得た知見を、私自身のプロジェクトにおける「アクセシビリティの文化定着」にも確実に活かしていきたいと考えています。


参考リンク


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