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「音」だけで遊んだら、同僚と夢中になった ― オーディオゲームセンターで考えた、アクセシビリティの入り口

「音」だけで遊んだら、同僚と夢中になった ― オーディオゲームセンターで考えた、アクセシビリティの入り口 cover

こんにちは。Engineering Officeのアクセシビリティアドボケート、辻勝利です。

6月のある朝、私は名古屋のあるビルの一室で、植木鉢を両手で抱え、聞こえてくる水の音を頼りに歩いていました。隣では竹中さんが猫の鳴き声を追いかけ、浜谷さんは焼き網の上で肉が焼ける音に、息を詰めて耳をすませています。三人が手にしていたのは、どれも映像のない、「音」だけで遊ぶゲームでした。

傍から見たら、なかなか不思議な大人三人組だったと思います。でもその場にいた私たちは、ただただ夢中でした。目で何かを確かめるのではなく、耳をすませて、音だけを頼りに遊ぶ。その新鮮さに、すっかり夢中になっていたのです。

私たちが訪れていたのは、「オーディオゲームセンター」という展示でした。映像ではなく「音」からゲームをつくり、音だけで遊ぶ——そんなユニークな作品が集まった場所です。名古屋で開かれていることを知り、出張のついでに同僚を誘って足を運んでみました。

植木鉢のゲーム。「はなちゃんを救え」の文字と枯れた植木鉢がモニターに映し出されている。花のオブジェクトが入った植木鉢とイヤホンが机の上に置かれている。
制限時間内に、音だけを頼りに花へ水をあげる「はなちゃんを救え」。会場で最初に夢中になった作品です。

この記事では、その朝のことを書いてみたいと思います。


なぜ、この三人で行こうと思ったのか

少しだけ、前日の話をさせてください。私と竹中さんは名古屋で仕事があり、前日から出張していました。

せっかく名古屋まで足を運ぶのだから、この出張をアクセシビリティの活動にもつなげられないか——そう考えていたときに、ちょうどオーディオゲームセンターの展示が名古屋で開かれていることを知りました。アクセシビリティのアドボケートとして、これはぜひこの耳で確かめておきたい展示です。そう考えた私は、竹中さんに加えて、名古屋オフィスで働く浜谷さんにも声をかけました。浜谷さんは、ドライバーに向けたサウンド設計を仕事にされている方です。「音」を扱うプロと一緒に、音のゲームを体験できる。これ以上ない組み合わせだと思いました。

正直に打ち明けると、この「お誘い」には、私なりの小さな狙いもありました。

アクセシビリティのアドボケートとして、私が会社のなかで担いたい役割は、製品やサービスを使いやすくすることだけではありません。その手前にある、「アクセシビリティの文化」そのものを社内に少しずつ根づかせていくことだと考えています。

そのためには、ガイドラインやチェックリストと向き合う時間だけでなく、まだ見たこと・触れたことのない領域のアクセシビリティに、同僚たちが自然と出会えるきっかけをつくりたい。そんな思いが、以前からずっとありました。今回の展示は、そのきっかけにぴったりだと感じたのです。


「音」を共通言語にして遊んだ、あの日の記憶

この場所に同僚を連れて行きたかった理由は、もうひとつあります。それは、私自身の忘れられない原体験です。

ずいぶん前のことになりますが、私はかつて東京で、「オーディオゲームをつくるハッカソン」に参加したことがありました。視覚障害のある人も、目の見える人も、一緒になって音だけのゲームをつくり、その場で遊ぶ。そんなイベントでした。

そこで私が感じたのは、なんとも言えない心地よさでした。その場には、難しい「アクセシビリティ」の話は、ほとんど出てこなかったのです。「視覚障害者のために」とか「配慮しなければ」といった肩に力の入った言葉ではなく、ただ純粋に、「音を中心にしたゲームって面白いよね」という一点で人が集まっていました。

「音」という共通言語の前では、目が見えるかどうかは、その場の主役ではありませんでした。みんなが同じように耳をすませ、同じように戸惑い、同じように笑う。あの対等でフラットな空気が、私にはとても新鮮で、心地よかったのです。

この感覚を、ぜひ同僚にも味わってほしい。難しい理屈ではなく、まず「面白い」から入ってもらえる体験として——そう思ったことが、今回のお誘いの根っこにありました。


当日、私たちを夢中にさせた作品たち

さて、当日の会場には、いくつもの作品が展示されていました。どれも、思わず「お、これは!」と声が出てしまうような、ユニークなものばかりです。

1つめは、植木鉢を抱えて、音を頼りに水を探すゲーム。鉢を持って歩き回り、聞こえてくる音を手がかりに、水のありかを探し当てます。制限時間内に花へ十分なお水をあげられるかは、私たちの耳と方向感覚にかかっています。冒頭で私が抱えていたのが、この鉢でした。

2つめは、音だけで進行する人狼ゲーム。誰が人狼なのか、表情ではなく声と音だけで推理していく緊張感がありました。それぞれのプレーヤーには、小さなスピーカーを通して別々の振動が伝えられ、どんな振動が届いたのかを話し合いながら、誰が人狼なのかを推理していきます。自分に届いた振動のリズムを、そのまま声に出してしまわないよう気をつけながら、慎重に人狼を探しました。

動物鳴き声クイズとサウンドウルフのゲーム。壁にゲームの種類と遊び方が掲示され、机の上にスピーカーとボタンが置かれている。
声と音だけで人狼を推理する「サウンドウルフ」と、鳴き声から動物を当てるクイズ。プレーヤーには小さなスピーカーから別々の振動が届きます。

3つめは、猫の鳴き声を頼りに、迷路の中で猫を探して捕まえるゲーム。「ニャー」という声を追いかけて夢中になっている竹中さんの様子が、その声の弾み方から伝わってきて、なんとも微笑ましく感じました。見つけたと思った猫が、ふっと別の方向へ鳴きながら逃げていく。その手応えのなさに、私は昔飼っていたやんちゃな犬のことを思い出しました。

猫探しゲームを体験する筆者の様子。アルミのフレームの中に入り、枠を握って、スマホがついたイヤホンの音に耳をすましている。
「Echolocation Maze ― 迷路でねこ探し」。アルミのフレームの中に入り、耳をすませて猫を探しているところ。目ではなく、音に集中する時間です。

4つめは、音を頼りに、ちょうどよい焼き加減を狙って焼肉を焼くゲーム。お肉が焼ける音の変化だけで、食べごろを見極める。サウンド設計を仕事にしている浜谷さんが、ここでいちばん真剣になっているのが、その張りつめた集中ぶりから伝わってきました。三人で同時にお肉を取り出すとボーナス点がもらえることもあって、それぞれが真剣にタイミングを見計らいながらゲームを進めました。

焼肉のゲーム。焼肉屋の網の写真とゲームの説明、スピーカーとボタンが机の上に置かれている。
お肉が焼ける音の変化だけで、食べごろを見極める焼肉ゲーム。サウンド設計が本職の浜谷さんが、いちばん真剣に聞き入っていました。

そしてもうひとつ、ゲームというより、動かすと振動に合わせて笑い出す提灯のおもちゃもありました。手のなかで震えながら笑う提灯に、思わずこちらまで笑ってしまいました。子どもの頃に遊んだ「笑い袋」を思い出すような、ちょっと懐かしい作品です。

どの作品も、目で見て楽しむものではありません。耳をすませ、手で感じ、音の変化に身をゆだねて遊ぶ。気がつけば三人とも、すっかり童心に返って盛り上がっていました。


「面白い」が、いちばん最初にあっていい

会場を出たあと、私はふと、あの東京のハッカソンで感じた心地よさが、そのままここにもあったことに気づきました。

この朝、私たちは一度も、肩肘張った「アクセシビリティ」の話をしませんでした。ただ、音のゲームが面白くて、三人で笑い合っていただけです。目が見える二人と、見えない私とが、まったく同じスタートラインで戸惑い、同じように夢中になれる。そういう体験を、言葉ではなく、身体で分かち合えたことが、私にはとても嬉しかったのです。

アクセシビリティというテーマは、ともすると「正しさ」や「やらなければいけないこと」として語られがちです。それももちろん大切なことです。でも、その入り口に、こんなふうに「ただ純粋に面白い」という体験があってもいいはずだと、あらためて思いました。難しい話の前に、まず一緒に楽しんでしまう。そこから自然と、「音だけでこんなに遊べるんだ」「目に頼らない世界にも、こんな豊かさがあるんだ」という気づきが生まれていく。

これからも私は、社内のいろんな人と、こういう「触れるきっかけ」を少しずつ増やしていきたいと思っています。難しい顔で身構える前に、まず一緒に耳をすませて、笑ってしまう。アクセシビリティの文化は、案外そういう楽しい時間の積み重ねから根づいていくのかもしれない——名古屋出張の締めくくりに、そんなことを思ったのでした。


もうひとつの出会い ― 鼓動を伝えるモビリティ「QUENELLE」

会場には、オーディオゲームとは別に、もうひとつ強く印象に残った展示がありました。「QUENELLE(くねる)」という、小型EVのコンセプト作品です。

これは、乗る人の鼓動を読み取り、それを音や光、振動として映し出す乗り物でした。乗り物を「操作する道具」としてではなく、感覚でつながる相手のように感じさせてくれる——そんな試みです。私も実際にまたがらせてもらいました。

鼓動を伝えるモビリティにまたがった筆者と説明員の様子。乗り物の車体の左右には、白い大きな湾曲した筒が設置されている。
「QUENELLE」にまたがらせてもらいました。なお、同席されたスタッフの方など、ご本人の同意を確認できていない方のお顔は画像処理をしています。

鼓動を伝えるモビリティの説明パネル。「QUENELLE 感覚つながる小型EV」と書かれている。
鼓動を音・光・振動で映し出す、小型EVのコンセプト作品。乗り物を「操作する道具」から「ともにある存在」へと近づけようとする試みです。

ドライバーに向けたサウンド設計を仕事にする浜谷さんが、この作品の前で何を感じていたのか。それは、次の感想に譲りたいと思います。


一緒に行った二人から

最後に、同行してくれた二人に、当日の感想を一言ずつ書いてもらいました。

現地に行くまでは「音のゲーム」というものがまったく想像できず、どちらかといえば、見た目には地味で質素な作品をイメージしていました。でも、実際にプレーしてみると、自分自身が夢中になって遊んでしまうほど面白くて驚きました。子どもから大人まで、幅広い世代の人たちが一緒に楽しめる——オーディオゲームには、そんな可能性があると感じました。(竹中)

車を運転中のドライバーは、とても不自由です。ずっと前を見ていないといけないし、好きに動くこともできない。ほとんど唯一の愉しみは「音」ですが、音楽を流すか、ラジオを聴くか、同乗者とのお喋りか。それって数十年前からほとんど何も変わっていない。「音を愉しむ」って、もっと自由で、色んな可能性があるんじゃないか?と、ずっと考えていました。一緒に体験したオーディオゲームセンターの作品は、自分の中にあった漠然とした仮説を、確信へと一歩近づけてくれました。(浜谷)


目を使わずに「音」だけで遊ぶ時間は、私にとって、アクセシビリティの新しい入り口を確かめ直す時間でもありました。もし機会があれば、ぜひ一度、耳だけを頼りに遊んでみてください。きっと、思っているよりずっと豊かな世界が広がっています。

参考リンク

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