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InnerSource Gathering Tokyo 2025 参加レポート

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技術広報Gの中西です。(FACTORY EC開発G・QAグループ兼務)こちらの記事は先日9/12にお台場で開催されたInnerSource Gathering Tokyo 2025についてのレポートになります。

インナーソースという言葉を耳にする機会は、ここ数年でぐっと増えてきました。弊社でもテックブログの開発やエンジニア文化の醸成を通じて、インナーソースカルチャーを推進するための小さな積み重ねを続けています。

今回のイベントでは学びが多く、私たちの取り組みこそがインナーソースカルチャーにつながっていると改めて確信しました。素晴らしい内容を多くの方と共有し、インナーソースという文化を広げていきたい — その思いから、このレポートを書いています。

「ふるまい」から文化を変える、現場発のインナーソース実装論

会場に流れていたのは、終始いくつかの共通トーンでした。サイロを壊すのはスローガンではなく「ふるまい」の累積だということ。コードだけが貢献ではないこと。そして、正しさを声高に説くより、小さく始めて仲間を増やすことが文化を動かすということでした。登壇者それぞれの別の言葉、カルチャーの異なる現場の共有をされていました。


グラデーションで捉える「サイロ」

冒頭、運営からのメッセージは明快だった。インナーソースは、文化的変化で社内のサイロを「壊す」ための試みだが、0/1で語れるものではない。組織ごとに濃淡がある。その前提で、チャタムハウスルール(Chatham House Rule)を宣言し、登壇者や企業名に紐づけず内容を安心して持ち帰れる場にしていました。こういった大前提となるルールが定められていると積極的な生きた議論が出来て素晴らしいですね。イベントの始まりから参加して良かったと思えた瞬間です。

会場(docomo R&D OPEN LAB ODAIBA)を提供したNTTドコモさんは、巨大LEDや5G/エッジ環境まで備えた「作る・学ぶ・発信する」施設を紹介されていました。イベント日以外もコワーキングとして開放されており、「エンジニアが自然に集まれる恒常的な場」を設計していることが印象に残っています。

docomo R&D OPEN LAB ODAIBA

インナーソースは「ライセンス」ではなく「やり方」

基調講演は、OSS(オープンソースソフトウェア)の歴史と作法を手がかりに、インナーソースを「やり方」として捉え直した。公開された議論・誰でも参加できる入口・コミュニティでの協働 ― このOSSの作法を、社内に移植するのがインナーソースだという原点回帰だということが語られていました。

コード以外の貢献」に光を当てた点も大きく、レビュー、テスト、トリアージ、翻訳、ドキュメント、インフラ運用、広報までが一級の貢献だと明言されていました。レビュー言語の作法に触れたくだりでは、 「受け取りは寛容に、出す言葉は厳密に」 というネットワーク界隈の原則を、対話の作法に重ねて紹介していました。指摘は命令ではなく対話の始まり。それを見て学ぶ第三者もいるからこそ、言葉が文化になるといえます。

もうひとつの軸はアジャイルとの親和性だ。頻繁なリリース、自己組織化、要求の進化 ― OSSが長く実装してきたものと、アジャイル実践は結局似ている。だから変え方も同じ筋道をたどる。行動を変え、考えが変わり、文化が変わる。いわゆるエンジニアカルチャーなど、言葉の選択は色々あるが根本にある考え方や行動に関して共通するものを持っていると改めて感じました。

動機の話では、楽しさや学びに加えてキャリアや評判が混ざる近年の傾向が紹介されていました。実例としては、会社が成長・学習を後押しする設計により、社内の貢献者が短期間で大幅に増えた事例が語られました。

質疑は実務的では、インセンティブはお金だけに寄ると長続きしない。楽しさと学び、そして評価の三点留めで設計するのが良い。バーンアウト対策については、最初から大勢に語らず、一人ひとりに声をかけて小さく勝ち、賛同者を増やすという手順が共有された。扱いにくい振る舞いに向き合う質問には、行動規範を用意し、コミュニティ全体の「平均値」を上げるという堅実な答え。排除ではなく、転じて味方になる構図をつくる発想が貫かれていた。

https://kdmsnr.com/slides/20250912_innersource/

これらはFearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターンのパターンに当てはまるものが多く、組織の中で新たなことを推進するうえで是非オススメしたい。


NRI「xPalette」:ケイパビリティを循環させる

野村総研さんは、エンジニアの創造性と主体性を解放する場づくりの四年分の知見を語った。リファレンスアーキテクチャと個別ガイドを整え、各自が試した知見を 「学ぶ→現場適用→フィードバック」 で循環させる。
この循環が回ると、プロジェクト参画の機会が増え、複数の技術を組み合わせた新しい事業の芽も立ち上がる。活動を事業価値で説明し、予算→環境改善へと正のスパイラルを作る筋立てが現実的だ。若手の「まず試す」を小口の時間・費用枠で支える、チャレンジを褒めるのをマネジメントが率先する――こうした「手触りのある運営」が随所にあった。


三菱電機 OSPO/ISPO:社外の注目を社内の追い風に

三菱電機さんは、OSPO(OSS)とISPO(InnerSource) を併走させる体制を立ち上げ、 プラットフォームを整える→オープンに載せる という習慣の普及から始めている。社外イベントで注目を集め、 外からの視線を社内の認知に逆流 させる語り口は大企業ならでは。社内イベントの連鎖で 用語が社内の共通語になっていく 過程が披露された。さらに、 11月13日に横浜でカンファレンスをホスト する案内もあり、ムーブメントの「」を先に作る姿勢が印象的だった。

InnerSource Summit 2025
https://innersourcecommons.org/ja/events/isc-2025/


対談:規程も「みんなで作る」/品質とは「使い手の価値」

対談は、大企業でインナーソースを実践した現場感がにじんだ。特に刺さったのは、開発標準や規程といった「ルール類」こそインナーソースで作るべきだという提案だ。関係者を巻き込み、承認フローまで公開する。
KPIの扱いでは、金額だけで説明しない。人数、再利用、レビューのリードタイムなど金額に寄与する手前の変化を測る。品質の定義については、「利用者にとっての価値」 を軸に置き、欠陥数だけで測らない姿勢が示された。生成AIをどう扱うかの問いには、作り手が人かAIかは本質ではないユーザー教育と運用設計、フィードバックの回路まで含めた品質管理が必要だという冷静な回答。
費用配賦や予算の壁をどう越えるかには、 「まず自チームで始め、フォロワーを増やし、制度は後から追随させる」 という、可能なところから現実的に進める作法が共有された。


KDDI「KAGreement」:オープンな合意が文化になる

KDDIの登壇は、「なぜここにいるのか」を言葉にする取り組み。副社長も参加する週次のFigJamセッションSlackでの公開を通じ、ワーキングアグリーメント(行動指針)をみんなで磨く
議論は「公開・アーカイブ・小さく早く・チーム横断」といったインナーソースのパターンとよく似た挙動になっている。全社ミーティングでランダムなブレイクアウトを行い、部門も年次も混ぜて対話する設計は、組織の「平均値」をじわじわ上げる実装と言えた。背後では、エグゼクティブ・スポンサーシップが確かに支えている。

https://www.docswell.com/s/mitsuba_yu/KLVRX7-2025-09-12-163618


チームラボ:見つからなければ「無い」のと同じ

チームラボさんのテーマは、「使われて育つ」ための仕掛けだ。組織が大きくなるほど、「何がどこにあるのか」が見えない。そこで、社内の「インナーソース部」を立ち上げ、興味と仲間の可視化から着手した。
次に作ったのが
InnerSource Portal
。リポジトリの概要、オーナー、導入手順、どのプロジェクトで使われているか、Issue/PRへの導線を一枚に集約する。Issueテンプレートも「質問・改善・機能追加…」と種類を分け、書きやすさを設計

さらに、「InnerSource Champion」「最多貢献」「神Issue」「新人賞」など称号と表彰を遊び心を持って運用していく構想が語られた。定期のリリース共有会や、期限を切って全員でひとつの社内OSSを作る日のような企画も視野に入れている。狙いはただ一つ。 「使いたいと思ったとき、そこにある」 状態を増やすことだ。

https://speakerdeck.com/teamlab/innersource_gathering_tokyo2025_teamlab


まとめ:小さな成功体験が文化になる

今年のISGTで響いたのは、どの登壇にも共通していた 「やさしい導線」 でした。
最初のPRが怖くないUI。最初のレビューが心地よい言葉。最初の採用が誇らしくなる称号。

そうした 小さな成功体験の積み重ね が、コミュニティ全体の「平均値」を押し上げ、サイロを溶かしていくのです。インナーソースは制度名ではなく、日々の ふるまいのデザイン であると強く感じました。


おまけ:懇親会の熱気

イベント後にはInnerSource OST(Open Space Technology)が行われ、各テーマごとに分かれてディスカッションが続きました。その流れで自然に懇親会へとつながったため、場は最初から大いに盛り上がり、活発な意見交換が続いていました。「カルチャーをどう良くしていくか」という問いに真剣に取り組む人たちが集まっていたからこそ、ただの交流ではなく、次につながる対話 が数多く生まれたのが印象的です。

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